【PLM導入事例】設計情報をつなぎ、製品ライフサイクルを支える基盤づくりへ
ニチコン株式会社
そこで同社は、設計システムと基幹システムをつなぎ、製品情報を一元的に管理する基盤として、図研プリサイトのPLMソリューション「Visual BOM」を導入いただきました。
今回は、Visual BOMを中心として、設計から生産、サービスへと製品情報をつなぐ将来構想と、その第一歩となったE-BOM構築プロジェクトについて、NECST事業本部 エネルギーソリューショングループ 技術統括部 技術管理部の西田様と大塚様にお話を伺いました。
お客様の企業プロフィール
- 会社名
- ニチコン株式会社
- 本社
- 京都府京都市中京区烏丸通御池上る
- 事業所
- 東京開発センター:東京都中央区日本橋兜町14番9号
- 設立
- 1950年(昭和25年)8月1日
- 社員数
- 4,982名(2026年3月31日現在 連結)
- 資本金
- 14,286百万円(2026年3月31日現在)
- 年間売上高
- 169,724百万円(2026年3月期 連結)
- 事業内容
コンデンサおよびエネルギー・環境関連製品を中心としたNECST(Nichicon Energy Control System Technology)製品の開発・製造・販売
NECST事業の主力製品
・家庭用蓄電システム
・V2H(Vehicle to Home)システム
・EV用急速充電器
・公共・産業用蓄電システム 等
お話を伺った方
-
NECST事業本部 エネルギーソリューショングループ 技術統括部 技術管理部 部長
西田 智宏 様
-
NECST事業本部 エネルギーソリューショングループ 技術統括部 技術管理部 部品情報管理課 主事
大塚 達也 様
取材年月日:2026年9月4日
採用いただいたソリューション
モノづくりを強力に支援する
PLMソリューション
家庭用蓄電システムの開発で、製品構成が複雑化
NECST事業に属する東京開発センターでは、家庭用蓄電システムを中心に、複合機をはじめとするOA機器向け電源などの設計・開発を行っています。複合機向け電源で長年にわたり高いシェアを維持する一方、近年は家庭用蓄電システムなど、一般消費者が直接利用する製品にも事業領域を広げています。
従来、同社が多く手掛けてきたOA機器向け電源は、製品構成が比較的シンプルで、既存製品をベースとした類似設計も多くありました。そのため、回路・基板のCADシステムから出力した情報をExcelで編集し、基幹システムへ受け渡す運用でも業務を進めることができていたのです。
しかし、Excelは柔軟に編集できる一方で、入力ミスや作業漏れを完全に防ぐことが難しく、たとえば、複数製品に同じ変更を反映しなければならない場面で、一部の製品だけが修正されずに残るといったリスクがありました。
「図研の回路・基板のCADシステムとPDMまではつながっていましたが、その先がExcelになっていました。Excelは自由に編集できる分、誤記や作業漏れが起こります。実際に10製品分の部品表を直さなければならないところ、9製品分で終わってしまうようなミスもありました。そのため、いずれはシステムとシステムをつなぐ必要があると、以前から考えていました」(西田様)
こうした課題がさらに顕在化したのが、家庭用蓄電システムの開発が本格化してからでした。
家庭用蓄電システムには、電気・電子系の部品だけでなく、筐体をはじめとする機械系の部品やハーネス部品も数多く含まれるため、エレキ・メカ・ハーネス部品が混在し、製品構成が多階層になるとともに、製品のバリエーションも増加していきました。
従来のようにExcelファイルをコピーし、必要な箇所を個別に修正する方法では、製品情報の全体像を正確に把握することが難しくなっていったのです。
「以前の製品は構成が比較的簡単だったため、Excelでも管理できていました。しかし、家庭用蓄電システムが始まり、エレキだけでなく複雑なメカ部品も扱うようになると、従来の方法では難しくなりました。バリエーションも増え、製品構成をきちんと管理できる仕組みが必要になったのです」(西田様)
事業領域の拡大に伴う製品の高度化に対応するためには、個別のファイルを人の手でつないでいく運用ではなく、製品情報を一元管理し、設計から基幹システムまで確実に受け渡せる仕組みが必要でした。これが、本格的なPLM導入検討のきっかけとなりました。
設計情報と基幹システムをつなぐ基盤としてVisual BOMを選定
そこで、新たな製品情報の管理基盤を選定するにあたって重視したのが、これらの既存システムと連携し、データを人手で加工することなく次のシステムへ受け渡せることでした。
製品情報の流れの途中にExcelを介在させるのではなく、設計システムからPDM・PLM、基幹システムまでをシステム同士でつなぐ。それにより、転記や個別編集によって発生するミスを抑えながら、製品情報を一元的に管理できる状態を目指したのです。
その結果、複数の製品を比較検討したうえで、国内ベンダーによる支援の受けやすさや導入済みの図研製品との連携性やシステムへの信頼性などを評価し、Visual BOMを選定いただきました。
「基本的には、人が途中で手を入れなくても、システムからシステムへ情報を受け渡せることを重視しました。国内ベンダーの方が相談しやすいという点と、以前から利用してきた図研のシステムに対する信頼もありました」(西田様)
Visual BOMは、単にExcelを別のツールに置き換えるためのものではありません。
設計システムで作成された情報を取り込み、製品構成や品目、設計変更などの情報を一元的に管理したうえで、基幹システムへ受け渡す役割を担います。同社では、その一連の流れを支える製品情報管理の中核としてVisual BOMを位置付けています。
最大の課題は、異なる設計プロセスをどう一つの仕組みに落とし込むか
プロジェクト開始後、最初の課題となったのが、設計部門における現行業務の把握でした。プロジェクトの主管となった技術管理部門では、各設計部門がどのような流れで設計を行い、どの段階で何を承認し、どのように情報を展開しているのかを、完全に把握できている状態ではありませんでした。
その背景には、事業譲渡や買収などを通じて事業領域を拡大してきた経緯もあり、部門ごとに異なる業務プロセスや運用ルールが存在していました。さらに、同じ東京開発センター内でも、家庭用蓄電システムを扱うエネルギーソリューション部門と、OA機器向け電源を扱うパワーソリューション部門では、設計プロセスが大きく異なっていたのです。
自社で製品を企画・開発する家庭用蓄電システムと、顧客からの依頼を受けて開発するOA機器向け電源とでは、業務の起点が異なります。最終的に作成される回路図や部品表には共通する部分がある一方で、承認ルートや社内への展開方法、各段階で必要となる手続きには違いがありました。
「まず、設計部門がどのような業務フローで仕事をしているのかを把握するところから始めました。家庭用蓄電システムを扱う部門と、OA機器向け電源を扱う部門では業務フローがまったく異なります。業務が違えば、それぞれの部門から出てくる要望も違います。それを一つにまとめることが大変でした」(大塚様)
各部門からは、それぞれの業務や経験に基づくさまざまな意見が寄せられましたが、必要な情報を収集し、異なる要望を整理しながら、プロジェクトを前へ進めることは容易ではありませんでした。
また、同社が希望する業務の流れが、必ずしもシステムにおける一般的なプロセスと同じとは限らず、従来業務をそのままVisual BOM上に再現しようとすると、手順が複雑になるケースがあることも判明しました。既存の方法をどこまで残すのか、システムに合わせて業務を見直すのか、同社と図研プリサイトは定例会を通じて一つひとつ検討を重ね、最適な形を模索していきました。
重要だったのは、異なる業務を無理に一つの形へ統一することではなく、共通化できる部分と、それぞれの事情に合わせて残す部分を整理することでした。
Visual BOMの構築は、システムの設定だけでなく、これまで部門ごとに行われてきた設計業務を可視化し、今後の標準的な業務のあり方を検討する機会にもなったのです。
本格運用に向けた「定着化フェーズ」へ
これまで設計現場では、長年にわたりExcelを中心とした業務が行われてきました。
そのため、Visual BOMによる変更管理や承認プロセスを含めた運用は、利用者にとって新しい考え方や業務手順への適応が求められるものでした。
「Excelは何でもできるので、ユーザーが好きなように使えます。一方でシステム化すると、間違いや漏れはなくなりますが、そのシステムに慣れるための時間が必要になります」(大塚様)
実際には、評価環境を用意しても、想定どおりに利用が進まない場面もありました。新しいシステムに対する心理的なハードルもあることから、まずは設計現場の利用者に実際に触れてもらい、使いながら理解を深めてもらうことが重要でした。
また、運用定着を進める中で見えてきたのが、Visual BOMの高い柔軟性をどのように設計現場の運用へ落とし込むかという課題でした。Visual BOMはさまざまな業務に対応できる自由度を備えている一方で、利用者から見ると操作方法の選択肢が多く、かえって迷いにつながるケースもありました。
「Visual BOMは良い意味で自由度の高いツールだと思っています。ただ、利用者目線で考えると、『これでもできるし、あれでもできる』という状態だと迷ってしまうことがあります」 (大塚様)
例えば、今回のプロジェクトでは業務内容に応じて複数のECO(設計変更指示)やECR(設計変更依頼)を用意しています。一方で、設定によっては異なるECO/ECRから同様の作業を行えるため、利用者がどの機能を使うべきか迷ってしまう可能性もあります。そこで現在は、業務ごとの利用ルールを整理し、誰もが同じ手順で運用できる環境づくりを進めています。
「利用者からすると、『どちらでもできる』よりも、『これはこの機能で行う』と決まっている方が分かりやすいんです」(大塚様)
システムの柔軟性を生かしながらも、運用面では分かりやすさを重視する。そうした考えのもと、業務に応じた利用ルールの整備や機能の使い分けを進めています。
そのため、当初想定していた一括移行ではなく、段階的に運用範囲を広げるスモールスタート型のアプローチへ方針を変更しました。対象を絞りながら利用を進めることで、システムへの理解を深め、設計現場の負荷を抑えながら運用定着を図っています。
まずはVisual BOMを日常業務の中で無理なく活用できる状態を目指し、改善を重ねながら本格運用を進めています。
図研グループの連携が、システム間の課題解決を支援
構築にあたっては、図研も含めた3社打ち合わせも実施。図研製システムとVisual BOMの間で確認が必要な事項が生じた際には、図研と図研プリサイトがグループ内で連携し、システム間の仕様や対応方法を整理しました。
「今回の構築に携わったメンバーは、それぞれの領域に詳しいスペシャリストだったので、とても助かりました。図研と図研プリサイトを交えた3社での打ち合わせもスムーズで、私たちが把握していないシステム内部のつながりについてもフォローしてもらえました」(西田様)
設計システム側の確認が必要な場面では、図研プリサイトが図研と直接調整し、回答することもあったといいます。
「グループ会社間での連携について、問題を感じることはありませんでした。むしろ、『こちらで確認しておきます』と対応してもらい、即日回答をいただくことも多く、助かりました」(大塚様)
複数のシステムを接続するプロジェクトでは、それぞれの製品機能だけでなく、システム間のデータや業務のつながりを理解した担当者同士の連携が不可欠です。
導入済みの図研製品とVisual BOMを組み合わせた今回の取り組みにおいて、図研グループとしての支援体制が構築を支える要素の一つとなりました。
E-BOMを起点に、サービスBOMとM-BOMへ段階的に展開
家庭用蓄電システムは長期間使用される製品であり、出荷後も保守や修理への対応が求められます。そのため同社では、設計段階で構築したE-BOMを起点に、保守サービスで活用する情報管理の仕組みづくりも視野に入れています。
現在、サービスに関わる情報もExcelで管理されていますが、将来的にはE-BOMを基にサービスBOMを構築し、設計から保守まで一貫した情報活用を目指しています。
「保証期間の長い製品なので、その間に部品が生産終了になることもありますし、自然災害によって修理が必要になることもあります。現在はExcelで管理していますが、E-BOMが整備されていれば、それを基にサービスBOMを作れると考えています」(西田様)
ただし、サービスBOMを構築するだけで、修理業務が完結するわけではありません。実際の修理では、地域の施工事業者が現地で作業する場合もあるため、必要な情報をサービス現場までどのように届け、活用してもらうかを含め、実際の業務を踏まえた運用方法を検討していく必要があります。
その先には、工場側が主体となるM-BOMへの展開も計画しています。E-BOMとM-BOMでは管理対象や部品表に対する考え方が異なるため、生産部門との調整を行いながら進める方針となっています。
「最終的には、E-BOMを中心として、そこからサービスBOMとM-BOMへ展開し、その情報がスムーズに基幹システムへ流れる状態を目指しています。人が途中で加工するのではなく、システムからシステムへつなげていきたいと考えています」(西田様)
設計部門だけで完結する仕組みではなく、サービスや生産を含む製品ライフサイクル全体を支える基盤へ。E-BOMの運用を定着させ、関係部門との調整を進めながら、段階的な拡張を目指しています。
Visual BOM/Projectで、製品情報とプロジェクト情報をつなぐ
これまで、製品開発のスケジュールやタスクはExcelで管理してきました。しかし、Excelで計画表を作成しても、タスクの期限を自動的に通知したり、遅延の兆候を関係者間で共有し、早い段階でフォローしたりすることは困難でした。
そこで、Visual BOM/Projectを導入することにより、タスクの期限をリマインドし、進捗状況を関係者が確認できる仕組みの構築を目指しています。また、製品開発だけでなく、生産終了部品への対応や代替部品の評価についても、期限と進捗を含めて管理していきたい考えです。
「開発スケジュールが遅れることがあるため、タスクのリマインドや、周囲からのフォローにつなげたいと考えています。EOL部品についても、いつまでに評価し、変更処理を行わなければならないのか、その進捗を含めて管理していきたいです」(西田様)
Visual BOMが管理する製品情報と、Visual BOM/Projectが管理するプロジェクトやタスクの情報を組み合わせることで、製品に関わる作業の進捗を把握しやすくなります。
製品情報とプロジェクト情報を連携させることで、設計変更や部品対応を含む開発活動全体を把握しやすい環境の実現を目指しています。
製品情報をつなぐ基盤づくりへ
今回のVisual BOM導入では、E-BOMの構築だけでなく、これまで部門ごとに管理されていた業務や情報を整理し、共通の基盤へ集約する取り組みが進められました。
現在は本格運用に向けた改善を進めている段階ですが、その先にはサービスBOMやM-BOM、さらにはプロジェクト管理まで含めた情報活用の構想があります。
E-BOMの整備はゴールではなく、製品ライフサイクル全体で情報を活用できる環境を実現するための第一歩として、ニチコン様の取り組みはこれからも続いていきます。
