Case study
導入事例

Visual BOM

通貨処理機メーカーのPLM導入事例(ローレルバンクマシン株式会社)

銀行や駅、そしてスーパーマーケットなどで活躍する通貨処理機。

ローレルバンクマシンは、この通貨処理機の専門メーカーとして70年以上の歴史を持つ老舗企業である。そんな同社では、以前より企画段階に計画していた製造にかかる原価と、設計後に計算した原価との乖離に大きな課題を抱えていた。

本記事では、その乖離を埋めるために同社が構築した「コストシミュレーション(自動原価計算)」システムと、その効果について解説する。
  • ローレルバンクマシンのオープン出納システム「SmartAXis」
ローレルバンクマシンのオープン出納システム「SmartAXis」

お客様の企業プロフィール

会 社 名 ローレルバンクマシン株式会社
本  社 〒105-8414 東京都港区虎ノ門1-1-2
従業員数 1,388名 (ローレルグループ 2018年6月末現在)
事業内容 各種通貨処理機・システムの開発、製造、販売、保守
金融オンライン端末機の開発、製造、販売、保守
お話を伺った方
開発生産本部 原価企画部 部長
宮崎 修 様

開発生産本部 原価企画部 原価企画課 課長
尾作 宗一 様

開発生産本部 生産一部 購買課
赤星 誠司 様

開発生産本部 商品開発一部 開発2課 担当課長
関根 政志 様

(取材年月日:2018年11月16日)
採用いただいたソリューション
Visual BOM

「設計が終わるまでは誰にも見えない」本当の原価

設計終了段階で原価を計算すると、企画段階に計画していた原価を大幅にオーバーしてしまい、コストの調整に苦労する。――このような問題は、製造業の現場では往々にして起こりがちである。ローレルバンクマシンにおいても、CADにパッケージ化されたコストシミュレーション機能でコスト算出を行なっていたが、当社のコストに見合う原価ではなく、企画段階で計画していた原価と、設計終了段階で計算した原価との乖離に頭を悩ませていた。同社 開発生産本部 原価企画部 部長の宮崎修氏は、こうした課題について次のように語る。

「当社では、新製品の開発時にはDR1からDR5と呼ばれる、5段階のデザインレビューがあります。設計序盤のDR1、DR2、いわゆる企画・構想の段階では、他の部門の人はもちろん、設計している本人にも本当の原価はわかっていません。詳細設計段階のDR3で、ようやくCAD上で形になって原価が見えてくるようになります。ただ、この段階の終盤になると原価の85%は決まってしまうといわれているので後戻りが困難な状況になってしまいます」
  • 開発生産本部 原価企画部 部長 宮崎 修 氏
開発生産本部 原価企画部 部長 宮崎 修 氏
また、以前は開発部に所属していたという同部 原価企画課 課長の尾作宗一氏は、こうした課題背景を踏まえつつ、開発者のものづくりに対する想いとその葛藤について次のように代弁する。

「開発担当者もコストを抑える重要性は理解していますので、設計しながらも原価は意識しています。しかし、原価計算には大変な時間と労力がかかるため、同じ時間を使うのなら、より良い製品を開発するための“設計”業務に時間を使いたいと思うようになってしまいます」

このように、企画、設計段階における原価乖離のしわよせは、次の生産フェーズである部品の調達に影響が出てくるという。同本部内で、直接部品調達に携わる生産一部 購買課の赤星誠司氏は、この状況を振り返り次のように語る。
  • 開発生産本部 原価企画部 原価企画課 課長 尾作 宗一 氏
開発生産本部 原価企画部 原価企画課 課長 尾作 宗一 氏
「『原価が計画よりオーバーしたから値下げしてほしい』そんな理由で納得してくれる仕入れ先はほとんどありません。目標の原価達成に向けて、コストの再分析とVA・VE提案活動の推進を行いますが、最終的な原価が計画をオーバーすると、社内から『もっと安くできないのか』と言われてしまいます。こうした社内外の板挟みは、業務自体もそうですが、精神的にも辛いものがあります」

このような状況を打開するために、ローレルバンクマシンでは企画の段階から正確な原価を把握するためのコストシミュレーション構築プロジェクトを立ち上げることとなった。

「コストをもっと早い段階から見えるようにできれば、後工程が楽になり、今より前向きなコスト交渉ができるのではないかと考えたのです」(赤星氏)
  • 開発生産本部 生産一部 購買課 赤星 誠司 氏
開発生産本部 生産一部 購買課 赤星 誠司 氏

二人三脚で構築したコストシミュレーションシステム

コストシミュレーションを実現するための手法として宮崎氏らが着目したのが、図研プリサイトが提供するPLMプラットフォーム「Visual BOM」だ。同製品は、仕様や諸元を文字・数値情報として含む「BOM」に、軽量な3D形状(XVL)を加えての表示が可能なソリューションであり、ものづくりに必要なあらゆる情報を迅速かつ正確に把握することができる。

ローレルバンクマシンでは、コストシミュレーション構築プロジェクトの検討以前よりVisual BOMを利用していたが、その採用理由について宮崎氏は次のように語る。

「Visual BOM導入以前に使用していたシステムは、BOM構成を設計か生産のどちらかに合わせるしかなく、両方に適した構成にすることができませんでした。また、情報を共有しやすくするためにデジタルモックアップの利用を検討しており、設計と生産の垣根を越えて社内の全員が利用できるようにしたかったのです。こうした時に、図研プリサイトさんが開催していたPLMに関するセミナーでVisual BOMの存在を知りました。ものづくりにまつわるあらゆる情報(「さがす」「つくる」「評価する」「伝える」)を、迅速かつ正確に、部門を超えて、連携・活用できることで、全社的な業務改善が実現できると思ったのです」
  • XVLを登録するだけで3D形状付きのBOMを作成
XVLを登録するだけで3D形状付きのBOMを作成
もちろんVisual BOMの導入は、今回のコストシミュレーション構築を見越したうえでのものだ。現場の開発担当者が設計をすると当社のコストに見合う原価が自動的に計算されていく。これが実現できれば、DR3の段階で計画原価をオーバーすることもなくなり、原価計算の作業に開発者が時間を取られることもなくなるのだ。

なお、今回のコストシミュレーション構築は、ローレルバンクマシンはもちろん、図研プリサイトにとっても初めての試みであったという。そのため、要件定義には1年をかけ、システム構築にはさらに1年半の時間をかけた。そして2018年の5月、念願のコストシミュレーションシステムが稼働することとなる。

「私どもは決して稼動までに時間を要したとは思っていません。使い勝手の悪いシステムでは意味がありませんから、図研プリサイトさん、そしてベンダーである大塚商会さんと、毎月打ち合わせをし、作業の方針についてじっくりと検討しました。おかげで導入してからも大きなトラブルなく順調に稼動しています」(尾作氏)
  • Visual BOMでのコストシミュレーション例
Visual BOMでのコストシミュレーション例

原価計算の自動化で現場負担を大幅に軽減

Visual BOMによるコストシミュレーションを導入して約半年、その効果は確実に現れつつある。同本部 商品開発一部 開発2課 担当課長の関根政志氏によると、このシステムの導入によって「開発現場の負担は大幅に軽減された」という。

「開発担当者によっては担当ユニットの部品点数が1,000点を超えるものもあります。それを一つひとつ計算していくとなると大変な時間と労力がかかります。しかし、CADファイルの保存で自動的に原価が計算されるのなら、開発担当者も詳細設計を進める中で日々、原価を意識できるようになります。結果、DR3段階における計画原価との乖離もほとんどなくなってきています」(関根氏)

さらに、コストシミュレーション導入による効果は原価把握によるコスト削減だけにとどまらない。尾作氏の試算によると、開発担当者1名が従来の原価計算にかかっていた時間のうち、最大で1ヶ月分に相当する作業工数の削減につながっており、生産性向上にも貢献しているという。

  • 開発生産本部 商品開発一部 開発2課 担当課長 関根 政志 氏
開発生産本部 商品開発一部 開発2課 担当課長 関根 政志 氏
他にも、“仕事中は常にコストシミュレーションの画面を表示している”という赤星氏は「Visual BOMには基本的な情報はすべて入っていて、しかも社内全員で共有されています。問題がある箇所が見つかって上司に報告する場合でも、画面を見ればすぐにわかるので、その場で妥当性の判断もできます。説明する手間が省けるだけではなく、先ほど申し上げた精神的な負担もかなり減りました」とその効果を力説する。

なお、ローレルバンクマシンでは、今後さらにコストシミュレーションの実施範囲を広げていく計画とのことだ。「このシステムは、まだまだ始まったばかりのものです。次は組み立て系への導入も検討しています。そのためにも、図研プリサイトさんとは、これからも長いお付き合いになると思いますので、ぜひご協力をいただきたいと思います」(宮崎氏)
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