Case study
導入事例

Visual BOM

音響・映像機器メーカーのPLM導入事例(船井電機株式会社)

昨今のエレクトロニクス業界は、デジタル家電をはじめとして過酷な競争にさらされています。日本のAV機器メーカーが苦境に立たされる中、欧米をはじめとしたグローバル市場をターゲットにテレビやブルーレイレコーダなどで大きなシェアを獲得している日本企業が今回ご紹介する船井電機様です。独自の生産システムF.P.S.(フナイ・プロダクション・システム)や生産拠点の最適化を進めることで、高品質でコストパフォーマンスに優れた製品をグローバルに供給しています。
2013年初頭、船井電機様では、製品開発の最適化に向けてVisual BOMをご導入いただきました。

今回はこれらの取り組みに至った背景や、具体的な取り組みの内容、今後の展開予定などについて、執行役員 AVシステム事業本部長の船越秀明様にお話を伺いました。
  • 執行役員 AVシステム事業本部長 船越秀明 様
執行役員 AVシステム事業本部長
船越秀明 様

お客様の企業プロフィール

会 社 名 船井電機株式会社
本  社 大阪府大東市
事業内容 電気機械器具(映像機器、情報機器)の製造及び販売
お話を伺った方
執行役員 AVシステム事業本部長 船越秀明 様
採用いただいたソリューション
Visual BOM

厳しさを増す事業環境の中で

当社ではエレクトロニクス市場における価値の追求という観点から「高品質な製品をどこよりもリーズナブルに」という経営テーマを掲げています。それに対して、いち早く海外生産拠点の展開や、現地部品の開拓などを進めてきました。これによって、品質を維持しながらも市場に受け入れられる価格を提案し続けてきたと自負しています。
実際2007年くらいまでは非常に高い水準で利益を出すこともできていました。そんな中、リーマンショックが起こり、合わせてアジアの競合メーカーの台頭により予想を上回る速度でエレクトロニクス製品のコスト水準が下がり続けました。

そこでフォーカスされたのが開発プロセスの最適化です。オーバーヘッドコストも含めて一切の無駄が許されない中で、「日本の知恵」を生かしながらグローバルレベルで設計開発を最適化したいということを考えたわけです。そういった思いにマッチしたのが、単純な情報管理にとどまらず設計開発プロセスを最適化することをコンセプトとしたVisual BOMの提案でした。

キーワードは「グローバルレベルでの開発最適化」

先にも述べたように、グローバルレベルでの設計開発の最適化は、我々にとって避けられないテーマです。「高品質な製品をどこよりもリーズナブルに」を実現するために、世界各国に開発・製造・販売といった拠点を展開しています。(図1参照)

そういった中で、情報を統合管理できるプラットフォームが必要なことは自明です。とりわけ、部品コストをはじめとする製品原価を決定するための情報が集約され、設計段階から活用できることは非常に重要になります。 例えば、最適な調達・製造拠点を検討する際には、拠点ごとの部品調達コストを集約管理し、構想設計段階で素早く集計を行うことが、求められます。また、製品ラインナップごとのコスト情報は、営業サイドで小売店などに価格提案を行い、受注を獲得するための元情報として、必要となります。
当然、この種の情報管理では部品サプライヤ―などとのやりとりも頻繁に行われます。そのサイクルを素早く回すことが、市場に製品を送り込むためには非常に重要になるわけです。

当社では今までも、生産管理システムなどのインフラ整備を進めてきたこともあり、設計者が手間をかけさえすれば情報を集めることは可能でした。しかし、より速く、正確に業務を回していくためには、設計開発に焦点を当てた情報管理のプラットフォーム改革も進める必要があったわけです。
  • 図1:船井電機のグローバルネットワーク
図1:船井電機のグローバルネットワーク

だからPreSightに決めました

Visual BOMを選定した理由はいくつかありますが、ポイントをあげると「CADとの連携による運用の効率化」「グローバル運用への対応」そして「より広くデータ活用可能な将来拡張性」があります。それぞれについて、簡単に説明します。

①CADとの連携による運用の効率化
CADとの連携による運用の効率化は業務効率の観点から非常に大きなポイントでした。
旧来のシステムでは、CADと部品表システムは完全に分かれていました。設計者がCAD設計を行った後に、調達を行うための部品表はExcelで作成し、それをオペレーターが手作業で旧来のBOMシステムに登録していました。
今回の取り組みではこの業務を見なおして、CADとBOMの電子データによる連携に着手しました。

当社では、エレキCADとして図研のCR-5000シリーズを採用していましたので、この情報をVisual BOMを介して生産管理のシステムまでシームレスに連携させることができました。Visual BOMのCR連携機能を用いることで、品目情報の連携を取りながら回路図、基板図の情報をBOMに連携させています。

また、併せてメカCADデータの連携についても取り組みを行いました。当社は3DCADとしてSIEMENS社のNXを用いており、設計の3D化は進んでいましたので、これも有効に活用したいと考えていました。まずは、XVLデータを介して新規ベースモデルのデータを構成として連携していく環境までは整えることができました。(図2参照)

今後の運用改善では、バリエーション展開品のBOMを3Dデータとも連携しながら素早く作り上げていくことや、共有ユニットの設計変更を素早くそれぞれのBOMに連携するような運用までカバーしていく予定です。
  • 図2:CADデータを元にした情報連携
図2:CADデータを元にした情報連携
②グローバル運用への対応
旧来のシステムでは、BOM構成を海外工場で確認するために数十秒、数分という時間がかかってしまうというようなこともありました。
拠点間、特に海外とのシステム連携では、アプリケーションだけではなく、ネットワーク環境などの要素が絡むため、Visual BOMのレスポンスについても、導入当初は半信半疑の部分もありました。ただ、プロトタイプの評価フェーズで海外拠点との連携テストも実施して十分なパフォーマンスが出ることが確認できました。(図3参照)

今後CADを用いた設計についても海外拠点に展開していく予定です。データ容量が大きいCADの運用展開には苦労も大きいと思いますが、管理システムと組み合わせて最適な開発拠点が活用できる環境を作っていく予定です。

③より広くデータ活用可能な将来拡張性
今回の取り組みでもう一つ重要なのは、設計開発の情報をVisual BOMというひとつの仕組みに集約していけるということでした。①でCADとの連携というポイントのご紹介をしましたが、Visual BOMを用いることで、図研の電気CAD情報だけではなく、メカCADで持つ情報まで含めた、情報の統合が実現できると考えました。
今後、Visual BOMへの情報集約が進むことで、設計開発部門だけではなく、様々な部門からも情報の検索・参照が可能になります。CADで持つ技術情報などを利用することで、営業・購買・製造など様々な業務の効率化につながっていくことを今後は期待しています。

既に、いくつかのテーマについて具体的な取り組みも行っています。それについては、次の章でご紹介します。
  • 図3:グローバル運用状況
図3:グローバル運用状況

更なるシステム活用に向けて

当社では無事にBOMシステムのカットオーバーを迎えることはできましたが、実際には真の効果が出ているとはまだ言えません。まずはシステムを立ち上げることに重点を置いて進めてきましたが、これからは「情報の活用」をどれだけ進められるかが勝負となります。
そのためにも、できあがったシステムに情報を蓄積するとともに、使い勝手の面でも改善を繰り返しています。加えて、更なる「情報の活用」という意味で、新たなテーマにも取り組んでいます。その中の2つをご紹介します。

①原価企画の高度化に向けて
1つ目に紹介するのは、原価企画の更なる拡充です。
製品単位のコストを素早く集計するところまでは、ここまでの取り組みで実現しましたが、戦略的な原価企画を実施するために更なる取り組みを行っています。それが、コストBOMすなわち「C-BOM」の概念の取り込みです。
当社では、技術部門内に原価企画の専任部隊を置き、営業・企画部門と連携しながらターゲット価格を決めていくという体制を作っています。
そこでは過去モデルや、仕様違い(例:テレビのインチ数違いなど)の製品を一覧比較しながらコスト戦略を立てていくということを行っています。
コスト比較時には、例えばどのモジュールの価格が上がったのかというように、様々な切り口から検討を行うことが求められます。これを実現するのが「C-BOM」の概念になります。
E-BOM(※1)ともM-BOM(※2)とも異なる階層を持つ「C-BOM」を、ある区分条件を用いて素早く作り、ここから画面上での比較までを行えるような環境を目指しています。(図4参照)
  • 図4:「C-BOM」概念の導入
図4:「C-BOM」概念の導入
②生産技術部門での情報活用に向けて
2つ目に紹介するテーマが、生産技術部門での情報活用です。
取り組みの開始当初から、設計部門と周辺部門との業務分担の見直しは大きなテーマの一つでした。CAD自体の操作の専門性もあって、設計者は製造資料や、マニュアル作成などの業務の一部を請け負わざるをえない状況もあります。
製造指示用の資料の元データを作ったり、マニュアル部門からの要請を受けて指定されたアングルの製品イメージデータを提供したりと、およそ本来業務とは言えない作業に圧迫されているわけです。

この見直しの推進に活用できると考えたのがVisual BOM上に管理される3D軽量ビューアデータ「XVL」の存在です。
生産技術部門などでも、XVL製品を用いれば軽量データを用いて様々な加工ができることは確認できています。今後は、設計者がVisual BOMというプラットフォームを介して、どのように情報を連携して、手間をかけることなく関連部門でXVLを含む情報を活用するかを検討して、実運用に乗せていきたいと考えています。(図5参照)
  • 図5:生産技術部門などでのデータ活用
図5:生産技術部門などでのデータ活用

今後の展開と図研プリサイトへの期待:企業間を含むデータネットワークの構築

コンシューマエレクトロニクス業界では、グローバルレベルでのダイナミックな変革が求められています。それに伴って、エンジニアリングデータの企業間連携もますますグローバルなものになります。
当社の周辺環境についての例を挙げると、2013年4月にはLexMark 社のインクジェットプリンター部門を取得しており、それにともなってエンジニアリングデータを含む情報基盤の拡張が必要になっています。既にVisual BOMへのデータ移行も実施して、旧LexMark社の拠点でのシステム運用も開始されようとしています。

ブランド、製造会社(メーカー)、エンジニアリング(設計開発)会社の関係は、より柔軟なものに変化しつつあります。今後のビジネスでは、その関係性の変化に合わせて、より戦略的に振る舞うことが求められます。BOMシステムには、その中核となるデータハブの役割が必要になります。
図研には、日本のモノづくりを支えるエンジニアリングITの専業ベンダーとしての立場を生かして、こういった柔軟な事業展開を支えていただくことを期待しています。BOMを中核としたモノづくりのプラットフォームは、我々の事業戦略においてより重要なものに変わっていくはずです。